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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)256号 判決 1963年10月03日

主文

上件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人木原鉄之助の上告理由(上告人武智光、同四国科学器械工業株式会社、同武智利子関係)第一点について。

証拠は、両当事者に共通する判断資料となるから、とくに当事者が相手方提出の証拠を援用したことを判示しなくても違法でないし(昭和一五年一二月二四日大審院判決、判決全集八輯八号二六〇頁参照)、原判決(その引用する第一審判決、以下同じ。)の判文上、所論の各証書採否の判断は十分に示されていて、右は首肯できる。原判決に所論判断遺脱の違法はない。

同第二点ついて。

本件貸付が被上告人の独立の業務として反覆継続的な意図をもつて行われたものと認めるに足りる証拠なしとし、よつて本件貸付が無尽業法六条所定の兼業禁止に触れるところはないとした原判決の認定判断は、肯認できる。右貸付について、営利目的のなかつたことおよび継続的になされなかつたことを明らかにしなかつた点に、理由不備もしくは理由そごの違法があるとの所論は、独自の見解であつて採用できない。

同第三点について。

所論各証人の供述だけでは、本件貸付以外に如何なる金銭貸付があつたかその内容も判明せず、したがつて被上告人の独立の業務として金銭貸付が反覆継続して行われていたことを認めるに足る証拠は存在しないという原判決の判断は、是認できないわけではない。所論は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、採用できない。

同第四点において。

所論は、原判決が本件「貸付行為は、これを客観的抽象的にみて、原告会社の目的遂行に必要な行為であると解するのが相当であり、右貸付行為は原告会社目的の範囲内の行為に属するものというべきである。」と説示している点をとらえ、法令および判例違反の違法があると非難する。

原判決も認定しているように、被上告(原告)会社定款所定の目的は、(一)無尽業法により無尽の方法による土地建物の給付、(二)住宅金融公庫との契約による業務の受託である。本来、資金の運用ということは、定款所定の目的そのものには該当しない行為であるが、本件貸付行為は、これを客観的、抽象的に見て、会社の目的遂行に必要な行為であると解するを相当とするとした原判示は首肯できる。無尽業法一〇条は、取締上の見地から資金運用の規定を定めたものと解すべきであるが、本件貸付行為が同条の規制を逸脱したものであるからといつて、会社の目的を遂行するに必要な行為でないとはいえない。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。

同第五点について。

無尽業法一〇条の規定は、行政上の取締規定であつて、それに違反する者には同法所定の制裁(法三九条の過料)を科せられることはあつても、それに違反する資金運用行為そのものの私法上の効力には消長をきたさない旨の原判決の判断は、正当である。右判断に所論のような違法はなく、所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。

上告代理人木原鉄之助の上告理由(上告人古川光信関係)について。

適法に告知された判決言渡期日に言渡延期の決定を言い渡したときは、当事者が出頭していない場合でも、その延期の言渡は効力を有する。それ故、原判決の言渡手続に違法ありとする所論は、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤朔郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾)

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